夢酒、『昭和残侠伝』を観る

 さて、プレミアムシネマ・健さん特集も、いよいよ『昭和残侠伝 死んで貰います』でござんす。
 なにしろ、放送に先立ってNHKのアナウンサー氏が「シリーズ最高傑作」と大絶賛。「私も大好きです!」と言ったかどうかは忘れましたが、とにかく盛り上がって来ました。健さんの誕生日(2月16日)に合わせるとは、NHKさんも気が利いています。


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 シリーズ7作目ということで、すでに様式は確立しています。人気は不動ですが、ややマンネリ化してきた頃です。そのためか、「血染めの唐獅子」とか「人斬り唐獅子」とか、刺激的なサブタイトルが付けられはじめ、ついに
  「死んで貰います」
まで来ちゃった。こんな物騒な映画を見に来るのは、どんな人たちだったんでしょうね(←お前だよ)。

 ですが、中身はそれほど血腥いものではありません。任侠映画といっても、切った張ったに明け暮れているわけではなく、ドスを片手に殴り込みは最後だけです。むしろ大正末期から昭和の初めの風情が、いい感じで描かれます。映像も綺麗です。
 劇中、水運事業をめぐって組同士が対立する場面があります。当時の事情は知りませんが、いわゆる任侠系の人たちが運搬事業や公共事業で凌いでいたことを窺わせます。
 ここで喧嘩の仲裁に入るのが、川波衆を束ねる寺田組の親分(中村竹弥さん)です。人情味溢れる立派な親分さんで、圧倒的な貫禄で場を収めます。親分さんが「ここは俺の顔に免じて」と口を切ったなら、何はともあれ従うのが仁義というものです。対する悪玉ヤクザ、駒井組の親分は捨てゼリフを吐いて退散です。小物臭がプンプンします。

 冒頭は賭場の場面。丁だ半だとやっています。健さんがいます。健さんはイカサマ臭さを感じるものの、証拠がないので眼で訴えるだけです。壺振りの兄さん(山本麟一さん)が察して、「そちらのお兄さん、何か?」と水を向けても、健さんは何も言えず賭場を後にします。
 実は、健さんは深川の老舗料亭「喜楽」の跡取り息子だったんですが、家出してヤサグレてたんですね。父親(加藤嘉さん)が後添え(荒木道子さん)を迎え、義妹(上村香子さん)に子供ができたのが原因のようです。
 健さんがとぼとぼと大銀杏(いちょう)の樹の下まで来ると、賭場の連中が追いかけて来て殴りかかります。健さんボコられちゃいます。すると先ほどの壺振り兄さんが現れて、「イカサマは見破られて初めてイカサマなんだよ」と言い放ちます。筋が通ってるような通ってないような理屈ですが、なんとなく説得力があります。「見破られたら、この手を切り落とされても文句は言えねえ」みたいな。イカサマ師の矜持と見ました。

 健さん、大銀杏の下でうずくまっています。雨に濡れてしょぼくれています。そこへ一人の娘が通りかかります。健さんを見て「キャッ」と叫びますが、放っとけず「お兄ちゃん、どうしたの?」と声をかけます。「お酒飲む? 暖まるってみんな言うよ」と、お使いで買ってきた大事な酒を飲ませちゃったりします。この心優しくて天然な娘が、のちの辰巳芸者・幾太郎(藤純子さん)ですが、このときはまだ芸者見習いで、15の小娘・幾江です。幾江は自分のことを「あたい」と呼び、売れっ子芸者になってもそれは変わりません。
 幾江は女将さんやお姐さんたちに、健さんを泊めてあげるよう懇願しますが、「どうせヤクザだろ」と相手にされません。大銀杏へ戻ると、健さんは姿を消していて、幾江が貸した傘が広げられたまま残っています。「ヤクザのお兄ちゃ~ん」と幾江が何度呼んでも返事はありません。

 それから3年、健さんはいっぱしの渡世人になって再び賭場の場面。壺振りは前のときと同じ兄さんです。修行を積んだ健さんは即座にイカサマを見破り、壺振りの手に錐みたいなのを突き立てます。見事3年前のリベンジを果たした訳ですが、賭場は大騒ぎです。警官隊が駆けつけ、健さんはパクられてムショ送りになります。4年の刑です。

 
 書き出したら止まらなくなってしまいましたが、お話はまだ始まったばかりです。
 こうしてさらに4年が経ち、健さんは幾太郎と再会。関東大震災のショックで目が見えなくなった義母と、彼女を助けて喜楽を切り盛りする板さんの風間重吉(池部良さん)、店を放って相場に手を出す若旦那、変わらぬ人情肌の寺田親分、ムショで知り合った舎弟の「ひょっとこの松」(長門裕之さん)などの人間模様が、情感たっぷりに描かれます。
 親分さんの計らいで、健さんは義母に知られぬよう偽名で喜楽の板前になります。でも、目は見えずとも義母はわかっていて、知らぬふりで、震災で亡くなった健さんの父親や義妹のために、仏壇のろうそくを灯すよう頼むのです。健さんはその心遣いに感謝して、黙って義母の肩を揉みます。しみじみと、いい場面です。
 しかし悪いヤクザの駒井組は、寺田組のシマを奪おうと虎視眈々。手始めに喜楽の乗っ取りを企んでいます。
 さあ、どうなることか。


 終盤では、若旦那が駒井に騙し取られた喜楽の権利書を寺田親分が買い戻しに行き、帰りに闇討ちに遭って殺されてしまいます。もう我慢がなりません。殴り込みしかありません。重吉さんはドスの封印を親指でピシッと切り、健さんは質屋に預けておいた?白鞘長ドスを手に、「ご一緒願います」と、男同士の道行きです。バックに健さんが歌う「唐獅子牡丹」が重々しく流れて、いやが上にも気持ちが高ぶります。雪もちらついてきたりして、手順は完璧です。でも、おなじみの歌詞と違って、かなり自嘲的です。

   白を黒だと言わせることも
   しょせん畳じゃ死ねないことも
   百も承知のやくざな稼業
   なんで今さら悔いはない
   ろくでなしよと夜風が笑う

   親にもらった大事な肌を
   刺青(すみ)で汚して白刃の下で
   積もり重ねた不孝の数を
   何と詫びよかおふくろに
   背中(せな)で泣いてる唐獅子牡丹

 「やくざ」とか「刺青(すみ)」がレコ倫に引っかかって、レコードでは歌詞を変えさせられたという話がありますが、真偽は不明です。映画版はドンピシャだと思うんですけどね。

 

 ところで、冷静に見ていると、駒井の親分は悪い奴なんですけど、しょせんケチな小物です。嫌がらせのやり方も稚拙ですし、詰めが甘すぎます。そのくせ突発的に寺田の親分さんを殺して、健さんや重吉さんの逆鱗に触れ、組を全滅させられちゃったのは馬鹿というか、相手が悪かったとしか言いようがありません。

 それよりも、壺振り兄さんの方が存在感があります。それもそのはず、演じた山本麟一さんは、当時最強の悪役俳優だったお人です。凄みと味のある演技で、悪役ながら人気がありました。
 山麟さんは健さんにイカサマを見破られたあと、天才イカサマ師の名にかけて精進を重ね、「観音の熊」と名乗って駒井組の客分になります。逆リベンジを図る観音熊は喜楽へ乗り込んで、健さんに再勝負を迫ります。健さん、せっかく堅気になったのに、とんだ迷惑です。そこへ幾太郎が出てきて必死に健さんをかばい、あたいの手を切って下さいとまで言うのです。そこまでやられては、観音熊も引かざるを得ません。「負けたよ」と言いながら、喜楽を去って行きます。観音熊、見かけによらずいい奴です。

 ところが観音熊は、駒井の指図で寺田親分を刺してしまいます。一宿一飯の客分としてはやむを得ないとも言えますが、同じパターンで健さんがアラカン親分を斬ったときは、わざと急所を外しました(←『緋牡丹博徒 花札勝負』の話です)。
 観音熊の胸中が気になるところです。結局健さんみたいに「てめーらには辛抱できねえ!」と寝返ることもできず、最後は他の雑魚と一緒に斬られてしまいます。健さんより不器用な観音熊が、なんだか不憫です。
 と、ここまで書いて、ふと思ったのは、観音熊たちは寺田の親分を襲ったあと、肝心の権利書を奪わずにズラかってるんです。こいつら何やってんの?と思いましたが、もしかしたらそれが観音熊の精一杯だったのかも知れない。もう一度現場を見て確かめる必要がありそうです。やはりDVDを買うべきか?

 健さんは、もう、そこにいるだけで絵になります。たとえボコボコにやられてしょぼくれていても。
 板前姿でだし巻き卵を作り、義妹の子に食べさせる時の笑顔なんか、たまりません。もちろん子供は、新参の板さんが、ぐれて家を出て行った伯父さんだなんて知りません。
 また、この「坊ちゃん」が、のちの真田広之さんだということも、このとき誰も知りません。

 
 藤純子さんは、『緋牡丹博徒』の颯爽とした女侠客とは打って変わって、アダっぽい芸者姿で登場です。紺の着物に博多帯、赤い玉かんざしのお竜さんを見たあとでは、脳内補正が大変です。
 それでも健さん出陣の際には、「止めやしません。でも帰ってきたら、あたしへの義理に生きて下さい」と、鉄火芸者の意地を見せます。そして、すべてが終わって健さんが警官に連れて行かれるところで、唐獅子牡丹むき出しの背中に、そっと着物をかけるのです。
 そういえば、重吉さんは討ち死にしちゃったんですが、ご心配なく。このシリーズでは毎回そういうお約束なので、また生き返ります(笑)

 


 夢酒はこの映画を、確かにリアルタイムで観ました。1970年の作品ですから、名古屋ではなく、東京のどこかで。
 たぶん東京で初めて一人で観に行った任侠映画だったと思います。勇気を奮って(笑)。
 ウブな田舎少年だった夢酒は、健さんの迫力にドキドキして、内容はほとんど覚えていないというお粗末。今回はテレビの前で、あのときに戻ったような気分で、正座して観ましたよ。

 改めて観た感想は、あ~スカッとした(笑)
 よくできてるな、と思いましたよ。1時間半程度の尺なのでストーリー展開に粗さはあるものの、テンポの良さがカバーして、とにかく目が離せない。骨格がしっかりしているうえに、手練れの俳優陣がきっちり役にはまっています。義理人情の狭間で歯を食いしばる健さんはもちろんのこと、今回は観音熊のヤバさにやられちゃったみたいです。健さんを見守り支える重吉さんの、渋くて品格ある侠気も忘れられません。

 鮮やかに思い出したのは、殴り込みの場面です。健さんが背後から斬りつけられようとするそのとき、映画館の観衆から 「健さん、危ない!」「健さん、後ろだ!」 と声がかかったという話がありますが、まさにそんな空気でした。そして、着物の背中がぱっくり割れて、唐獅子牡丹の彫り物が現れると、 「待ってました!」 と観衆は熱狂の渦・・・。

 45年前が蘇りました。高倉健さん、有り難うございました。 合掌


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