夢酒、『参謀』を読む

 二人の野球の鬼が、夢中になってドラゴンズを設計し、作り上げていく。本の中からそんな姿が浮かび上がる。ボス鬼と参謀鬼が、なんとも楽しそうに。
 この鬼たちにかかっては、「常識」や慣習などお構いなしである。すべては勝つチームを作るため。やれることはなんでもやり、阻害するものはとことん排除する。ボス鬼は次々とアイデアをくり出し、参謀鬼は全力で実行する。その絶妙さは、読んでみなきゃ分からない(笑)


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 たとえば、ボス鬼が外国人野手を獲りたいと言う。球団に頼めばアメリカから30過ぎの連中を連れてくるだろう。でも高いカネ払って、1年でダメでクビなんてのは嫌だよなと。

「26~27歳までの、安くてちょっといいの、どこかにいねーかな」
「私に野手のことはわかりませんよ。それに安いのはAAAやメジャーでは無理ですよ」
「ダメ元でいいから、どこかコネない?」
「じゃあ、コネはないけど、とりあえずドミニカへ行ってきますわ」
「ドミニカってなに?」
 ※なお、会話はほぼ原文のまま(笑)

 こうして参謀鬼はドミニカへ選手探しの旅に出る。彼が連れてきたドミニカンたちの活躍は、周知の通りである。そしてドミニカルートの開拓は、吉見、中田ら日本人選手の派遣へと発展し、チームに大きな効果をもたらした。 
 この話だけでも1冊の本に膨らむだろう奮闘記であるが、実は山ほどある中の数ページのエピソードにすぎない。
 勝つために、コーチや選手の意識改革のために、二人の鬼がどれほど凄まじい努力と工夫を積み上げてきたか。ボス鬼が就任するやいきなりの「開幕投手川崎」も、「6勤1休キャンプ」の隠れた意味も、ああ、そういうことだったのかと、夢酒は思わず膝を打つのである。
 練習したチームは優勝する。いや、俺たちが必ず優勝させる。彼らの思いはコーチ、選手にヒタヒタと浸透し、やがて揺るぎない信頼関係が築かれる。

 すると、こうなればこっちのもんだとばかり、最初のうちはイニング途中でのピッチャー交代を告げに行っていたボス鬼が駄々をこねはじめる(笑)

「もうイヤ、こんな仕事」
「いや監督、こんな仕事って(笑)」
「おまえが決めてんだから、おまえ行け」

 思えば、ボス鬼が完全に参謀鬼に任せた瞬間だったのであろう。

 読売戦でボス鬼が審判に抗議しに出て行く。どうせ退場になるつもりだろうと思いながら、5分経ちそうだから仕方なく連れ戻しに行く。相手キャッチャーの阿部がからかう。

「森さん、大変ですね」
「おう、もうちょっと我慢してくれ。今、退場って言われるから」

 7分後、案の定ボス鬼は「あとは任すぞ」と言い残して退場になった。だが、「代行で私は1勝もしていない」(笑)
 
 ボス鬼の観察力、洞察力、我慢強さに驚嘆し、リスペクトしながらも、ことさら神格化することはない。自分の「手柄」を自慢することもない。黙って任せてくれる懐の深さに感謝しつつ、時には自分がボス鬼を操る快感を覚えながら(笑)、参謀鬼は知恵とチカラを振り絞って任務を遂行するのである。



 さて、勝つために、選手を守るために、どうしても防がなければならないのは情報の漏洩だった。特例は絶対作らないというボス鬼の方針の下、情報が漏れたと感じた場合には徹底的にルートを調べ上げる。結局その多くは中スポとズブズブのOBコーチの仕業だったのである。
 これらの者を排除した結果、ドラゴンズのスタッフ、コーチ陣からは次第に「中日色」が薄れていく。それは「関係者」やOBらの猛反発を招くことになるが、そんなことは百も承知。真正の野球の鬼たちには痛くも痒くもない。

「我々は戦争やってるつもりだった」(落合博満・岡崎講演会)のだから。

 このような情報管理の徹底が、落合監督はじめ首脳陣の解任に繋がったのは、昨秋目の当たりにした通りである。「新しい風」と称する反動ジョイナス体制が、中スポに後押しさせて予告先発導入のお先棒を担いだのは、必然の成り行きだった。

 
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 「おい、手伝えよ」と、突然電話で誘われてから8年間。参謀鬼・森繁和コーチは渾身でボス鬼・落合博満監督を支えた。『参謀』はその痛快な記録であり、落合監督への謂われなき誹謗・中傷を吹き飛ばす証言であり、このチームを愛した人々への置きみやげである。そして今、自転車操業采配とテンプレ継投に明け暮れる爺さんたちの暗愚を、くっきり映し出す鏡でもある。

 照れ屋のボス鬼は、最大級の感謝とねぎらいの言葉を、短く帯に書いて贈った。



【関連記事】
 「参謀」―落合博満は何が違うのか①  (『週刊現代』2012.4.14号)
 森繁和×二宮清純<前編>「今だから話せるオレ竜の真実」 
 森繁和×二宮清純<後編>「バッターは飛ばないボールで工夫せよ!」 (← 5/16更新)
 
 

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この記事へのコメント

sahokokko
2012年05月16日 23:26
広小路様こんばんは。

慌てて書店に買いに走りました。
答え合わせをするようなわくわくした時間が過ごせました。ファンだけでなく選手にもとても幸せな時代であったんですよね。監督とヘッドコーチには本当に感謝です。この時代をドラゴンズで過ごした選手たちが、今後どうなっていくかを見届けたい。でも、この本に書かれていることはすでに「伝説」になりつつある話なんですよね。寂しいです。
日本シリーズで、谷繁選手が「お前らいい加減打てよ!」と怒ったこと、シリーズを思い出して笑い泣きしてしまいました(涙)。
夢酒
2012年05月17日 13:02
>sahokokkoさん
素晴らしいコメントを有り難うございます。
まったく仰る通りで、選手たちには幸せな時代でしたなぁ(←遠い目)
全編通して選手一人一人への、分け隔てのない愛情や気配りが感じられます。本人は意図した訳ではないでしょうが、ユーモアに溢れて。そして「いつでも監督の代わりにクビを差し出す覚悟」にしびれましたよ。
二人の鬼が渾身で作り上げたドラゴンズは、思えば奇跡のようなものだったのかも知れません。
森繁さんは谷繁についてもページを割いていましたね。落合監督には「8年で一番変わった」と認められ、森コーチも取扱い?に最も配慮したと。現在だけでなく、将来の指導者として大切に思っていたのでしょう。
14日、CBCの「イッポウ」に生出演し、浅尾の降格について聞かれたとき、何かを睨みつけるように「逃げた、と取られる可能性もある」と答えていました。夢酒には「浅尾をここまで追いつめたのは誰だ!」と言っているように聞こえましたよ。

あと、今さら聞くのもナンですが、お名前の意味は?
sahokokko
2012年05月19日 23:48
広小路様

ふふふふふ。こんなときのためにあるこの台詞。
それは愚問じゃないですか(笑)
一度言ってみたかった(笑)
将来お目にかかる機会がありましたらご説明いたしますゆえ、全世界に向けて発信することはご勘弁を(汗)。

話は変わりますが、某A新聞の落合監督夫人「我が家の落合」は昨シーズンで終わりましたが、替わってこの春から落合監督のエッセイ「閑話無題」が不定期で掲載されています(広小路様ご存知ですよね?)。不定期も不定期、忘れた頃に掲載されるので、多分ペースは監督の気まぐれ(笑)
いつもなるほどと腑に落ちる内容ばかりですが、よくよく読むと、監督が言っているのは普通で当たり前のことばかり(笑)
選手たちも、落合監督の野球は「普通の野球」だと言っていたようですし、実はこの「普通で当たり前」であることこそが落合監督のすごいところなのでは。ただし、その「普通」は、とことん観察して実践して試行錯誤して考えて究めたのちにたどり着いた「普通」なのでぶれないし説得力がある。深く考えることもなく世の中の論調に流されて自分は「普通」であると思っている人々との「普通」とは根本的に違うのだなあ。
などと最近考えたりしました。
夢酒
2012年05月20日 10:37
>sahokokkoさん
たしかに愚問でした。く~っ、ワシとしたことが・・・(爆)
いつか直接お聞きする日を楽しみにして、あれこれ妄想することにします(笑)
落合監督の「閑話無題」は、たしか隔週木曜日だったと思いますが、当家は新聞取っとらんので(中日新聞は怒りの解約したし)忘れちゃう(笑)
図書館へ行けば読めるので、今のところ外してはいませんけどね。あと日刊スポーツにも隔週火曜日にコラムが載っていますな。こちらも臨時休業が多いです(笑)
落合野球は「普通の野球」でしたが、「普通」を貫くには普通ならざる努力と工夫、不断の検証が必要なんだと教えてくれました。そう言えば、高木さんの「普通です」は何だった?(笑)
実は本日午後、名古屋市内で落合講演があります。ワシ用事で行かれへんけど、カミさんが行きます。極秘情報を掴んでくるかも知れません(笑)
昨日はからくりでNHKの解説、今日は名古屋で講演と、監督大忙しですな。
2012年05月24日 18:34
お師匠さんまたまたまたこおーんにちは(照)

「采配」も「参謀」も購入します!!!
(↑え?まだ購入していない?(汗)

今は江原さんの著書の読みかけの途中なので
終わったら落ち着いて購入します!!!

普通に普通をこなすのって
案外難しいですねー(汗)
何が普通なのか迷いますものー><
夢酒
2012年05月25日 00:29
>お蘭様
『采配』と『参謀』。いかに凄い人たちがドラゴンズのベンチにいたのか、クラクラしそうですよ。
何が普通かって、そこが一番難しいですなぁ。シンプルなようで深く、深いようでシンプル。これらの本にヒントがあるような気がします。
はよ買って読まんかい!(笑)
そうそう、ちび子さんが来てくれました。びっくりしたけど嬉しかったですよ。